作家: 神渡良平 先生
Kテニススクールの開校に向けて
私は17年ほど前、名監督の取材で、京都・伏見工高ラグビー部の山口良治監督(当時)と知り合い、それ以来付き合いをさせていただいている。伏見工高ラグビー部は4年前の平成17(2006)年、4度目の全国大会制覇の偉業を成し遂げた高校ラグビーの名門である。
平成4(1992)年、伏見工高が2度目の全国優勝を果たし、ラグビー王国ニュージーランドに遠征したときのことである。ニュージーランドはオールブラックスという世界ラグビーに冠たるチームを持つラグビー王国だ。一つの高校にラグビーチームが幾つもあり、優秀な選手はどんどん引き上げられ、代表チームでプレーする。だからトップチームのフィフティーンは全校生徒のヒーローだ。
対戦は首都のウェリントンの高校から始まった。ところが勝てない。一戦目も負け、二戦目も負けて、連敗が続いた。こんなはずではない。日本一に輝いたチームが一勝もできないなど、あるはずがない。監督も選手も眼の色が変わった。監督の激が飛んだ。
「必ず勝つぞ。信念を持て! われわれは遊びに来たんじゃないんだ!」
そしてこれが最後という十戦目が始まった。一進一退の死闘が続き、ついに伏見工高が逆転勝利した。ホイッスルが鳴り、ノーサイドが告げられたとき、選手たちは山口監督のもとに走り寄り、胴上げをした。宙に舞う監督の眼に涙が光り、胴上げをする選手たちも泣いた。その光景を見ていて私は、選手たちは山口監督からラグビーのテクニックを教わっている以上に、人生に取り組む姿勢を学んでいるのだと確信した。
このたび、尊敬している人見敬さんが、大手のテニススクールから独立して、子供向けのテニススクールをオープンした。その人見さんが心に秘めていることわざがある。
「一日を楽しむ人は、花を活けよ。
一年後を楽しむ人は、花の種を植えよ。
十年後を楽しむ人は、木の苗を植えよ。
百年後を楽しむ人は、人を育てよ」
人見さんがやろうとしていることを見事に表現していることわざだ。人見さんはテニスを通してお子さんたち一人ひとりの人間を作っていこうとしている。以前にも増して、人見さんの指導が花開いていくことを、私も心嬉しく思っている。